医療従事者への拍手にモヤつく訳 

医療従事者のみなさんありがとう?

誰かからの「頑張って。」「あなたは素晴らしいです。」の言葉を受けて素直に喜べないと思ったことはありませんか?

少し前のことですが、新型コロナウイルスの重症感染者の治療をする医療従事者にむけて毎日決まった時間に拍手をすることが世界各地でされていました。著名人がSNSで発信していたりもしました。日本でもされていたようです。

私も医師の仕事をしているので、新型コロナウイルスが蔓延してから患者さんや家族の方に声をかけていただいたり、お菓子や飲み物、手紙を渡される機会が増えました。

みんなから拍手されることは、一般的には感謝され応援してもらい大変ありがたいことなのかもしれません。しかしその様子を見ていると私の心の中でどうもモヤモヤが出てくるのです。

その理由について考えてみました。

私を含め医療従事者の中には素直に「ありがとう。」と受け取れない方がいるのではと感じるからです。多くの方の本音は自分の身を危険にさらしてまでこの仕事をしたくないと思っているかもしれません。自ら望んだことではなく、「ただ目の前の現実があるからやるしかない。仕方がない。それが仕事だから。」と割り切っているのではないかと思います。

医療に携わる仕事を選んだきっかけは人によって様々でしょう。これまで自分の仕事にやりがいを感じていた人も多いでしょうし、そうでない人もいるでしょう。ただ今回のようなパンデミックに立ち向かうために仕事を始めた人は少数派ではないかと思います。

私は実際に新型コロナウイルスの重症感染者の治療にあたる病院の医師と働く機会があります。彼らの様子を見ると、とても頑張ってくださいとは声をかけられないと感じました。

ある医師は普段の診察ではにこやかな明るい性格でしたが、最近では何かの拍子に看護師に対して声を荒げることが増えました。またある医師は、いつもならちょっと高圧的な態度で看護師に接し、煙たがられるような人でした。しかし、感染が始まって以降、「もう嫌だ。病院にいたくない。」と看護師に蚊のなくような声で話していました。それでも医師達は患者さんの前では何事もないかのように接します。なんとか自分の気持ちを押し殺し、冷静を装って仕事をしているのでした。「医師という立場上逃げることはできない。」「周りも必死で戦っているのに自分が迷惑をかけるわけにはいかない。」何かに縛られて必死で頑張っているように見えるのでした。

 

そんな様子を見て、私が過去に感じていた自分の気持ちを投影させて辛くなってしまったのでした。

数年前、大きな病院で癌の治療にあたっていた当時、私は毎日極度の緊張とストレスを抱えていました。自分が失敗したら目の前の人が死んでしまうのではないかと恐れを感じていました。また自分の責任ではないのに患者さんが亡くなるたびに自分のせいではないかと責め続けていました。でも目の前の誰かのために私が頑張らなければという想いが強くありました。そしてうまくいかないと感じると「こんなに頑張っているのに。」と絶望的な気持ちにもなっていたのでした。

そんな時、人からの「頑張ってね。」の言葉に、決して自分の気持ちなど分かってもらえないと感じていました。頑張ってと言われると辛い状況から逃げることができないように感じます。こんな状況から一刻も早く抜け出したいという気持ちが本音でした。

それはどこか戦場にも似ているように感じます。

誰も自分のことを理解してくれない

戦争中、兵士は「国のために戦うこと」が名誉あることとされていました。目の前の現実に立ち向か話なければいけないという柵があり、戦場から逃げられない恐怖、自分が死んでしまうかもしれない恐怖が常にあります。「本当はこんなことはしたくないけれどしなければならない。」自分の気持ちを押し殺して戦う姿が思い浮かびます。これは過去の日本だけでなく戦争を経験した国では少なからずあるように感じます。

目の前の恐怖、体と心の消耗、想定外のことが起きた時の自責の念は、いつまで経っても自分の体にまとわりつくように残っているのです。このようなものが私を苦しめているように感じました。

そこで私はこの感情を見つめてみようと胸の中にある声をそのまま外に出してみました。これは感情カウンセリングで行う感情と距離をとるワークです。自分と近すぎてよく理解できなくなって囚われていることを客観的に見やすくします。とにかく思い浮かぶままに自分から出るものを遠くに置いてみます。

「私はこんなことをするために生きてきたのではない。」「なぜこれほど頑張っているのに、誰にも理解してもらえないのか。」

息苦しさと体の窮屈さこわばりを感じます。いつの間にか拳に力が入り、前腕の内側がわずかに痺れ、胸の奥に詰まったような重たい何かを感じていました。

感じていくうちに「もっと自分のやりたいことで生きたい。」「本来望んでいた人生を送りたい。」という気持ちが胸の奥から湧いてきました。

最初は周りの医療従事者に対する同情が私をモヤモヤさせていると思っていました。

しかし、心の声を聞くと私自身が現状にまだまだ満足して生きていないことに気がつきました。

私が拍手にモヤついた訳は自分のやりたくないことで感謝をされても素直に喜べないと感じたからです。今の仕事に不満があったわけではありませんが、本当にやりたいこととはズレていることを感じていたのでした。

本来自分がする仕事に喜びや充実感があれば、感謝されることを受け取れるでしょう。「役に立ててよかった。嬉しい。」そんな気持ちが自然と湧き上がりそうです。

しかし、仕方なくと思っていることや本来のやりたいことと違うことであれば、その感謝を受け取れなくなるのかもしれません。

ただ、この出来事をきっかけに私にはずっと胸の秘めていた想いを思い出しました。それは、どんな方でも本来の健康を取り戻し、自分の持つ能力を適切に活かして活躍できる世の中にしたいということです。

「そのためには今の医療のままではダメだ。本気で医療を変えていきたい。」これが最終的な私の想いでした。

 

ところで実際の現場の医療従事者の方はこの新型コロナウイルス流行をどのように感じているでしょう?一人ひとり違うのでわかりません。この状況に使命感を燃やしている医師もいるでしょう。感染症の専門の方やパンデミックを想定した医療に興味のある方もいるでしょう。

ただそのように全ての方がそのように感じるわけではありません。少なくとも私の身の回りでは自分の気持ちを押し殺している人が多いように感じます。私のように自分の本音に気づかずにいるのかもしれません。多くの医療従事者は自分の仕事に誇りを持っていると思いますが、自分の気持ちを抑えて身の危険を犯した結果が現場の人にとって良い方向にはなってはいません。このまま感染者が増えていけば、一体なんのためにこの仕事をしているのだと感じる医療従事者は増えていくかもしれません。

医療はこのままでいいのか?

病気になったら病院で治してもらう。多くの人はそう考えるでしょう。確かに病気は自分でどうすることもできないことが多いです。医療は進歩し、多くの病気が治せるようになりました。一方で健康でいることよりも不具合が起きたら、その時になんとかしてもらおうと考える人が増えたように感じます。自分の健康を人に任せてしまうようになった背景があるのではないでしょうか。

新型コロナウイルスが流行する以前の社会を振り返ってみると、多くの人は何かに追われるように忙しさやストレスを感じていました。

職場で評価されるために、お金のために、家族のためにと、自分ではない何かのためにストレスを溜めて頑張る人が多くいました。睡眠不足や疲労で風邪をひいたり、職場の人間関係がうまくいかずお腹の調子を悪くする人がこの数十年でどれほど増えたことでしょう。

多くの人は病院で薬をもらってなんとかしようとしてはいなかったでしょうか。原因となることをやめたり、ライフスタイルを変えるといった健康になることではなく、無理をした状態を維持するために病院が都合よく機能したのかもしれません。皮肉なことに医療は進歩しているのに、病気の人は増えています。自分で自分の健康について意識が向けられなくなってしまいました。

また医療を提供する側も多くの患者さんを診るために効率性が重視されるようになりました。そのために検査値であったり、表面上問題にばかりが重要視されたように感じます。ライフスタイルの改善や内面の問題には対処しきれていませんでした。

新型コロナウイルスに対する有効な治療は今のところありません。治癒には本人の免疫力の影響が強いと感じます。そもそも感染症などの病気は薬以上に自分の免疫が正常に反応して治ることが多いのです。

新型コロナウイルスが流行する前から、個人の健康は個人が管理するものではなく医師や薬が何とかしてくれるものになっていました。しかし今は病院に頼ってばかりいられません。感染者が増えれば、医師の負担も大きくなりますし、入院するベッドもなくなります。感染しても治療ができない状況に益々なります。本来別の病気で治療の必要のあった人たちの治療ができなくなっていきます。

 

健康になるには?

ではこれからはどうしたらいいのでしょうか?

病気になったら治してもらうではなく、そもそも本来の健康な状態になることが大切ではないでしょうか?

自分で健康になるのです。

しかし多くの方は本当の健康を知りません。医師を含め多くの人はちょっとぐらい体の不調があることが当たり前になっと思ってしまっているからです。

改めて健康について考えてみたいと思います。

健康とはなんでしょうか?WHOでは健康とは「完全な肉体的(physical)、精神的(mental)、Spiritual及び社会的(social)福祉のDynamicな状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」と示しています。さらには健康の確保のために生きている意味・生きがいなどの追求が重要とされQuality of Life(生活の質)を重視しています。

健康は、体が元気なだけでなく、心が元気な状態であり、周囲の人との良好な繋がりを持ち、自分が安心して満たされ喜べること、自分の本当にやりたい使命に生きることではないでしょうか。

そのためには自分が何が好きで、何をすると喜びを感じるのか自分を知ることが大切です。案外多くの人は自分のことを知りません。自分の気持ちを無視して生きてきたからです。

また、ストレスを溜めないことも大切です。ストレスが起因する病気は山のようにあります。これまでの医療ではこのストレスの扱い、対処法について踏み込むことができませんでした。ストレスに関しては今まであまりにも軽視されてきたように感じます。

ストレスを感じる原因はなんでしょうか。職場の人間関係かもしれません。子育ての悩み、夫婦間や両親との関係もそうです。これからの時代をどう生きていけば良いかといった未来に対する不安を感じる方も今は多いかもしれません。

ストレスの原因になるような自分を不安にさせたり、苛立たせたり、悲しませる感情を自分で対処できるようになり、前向きに自分の思うように生きることは健康への第一歩です。

誰でも本来の健康な状態になれる

そう考えると感情カウンセリングは全ての方の健康に役に立つと思うのです。カウンセリングを受け、自分の感情と対峙することで自分を苦しませる悩みから解放され、自分のやりたいこと、生きたい人生を歩むサポートになるのです。自分を酷使せず、楽しんで仕事をしたり、家族やパートナーと良好な関係を築いたり、自由に自分の望んだ人生を生きることは誰しも望んでいることではないでしょうか。

私は今までの医療ではない新しい医療が必要だと思っています。それは自分が無視してきた感情を解消することでストレスをなくしていくことです。ストレスなく本来の生きたい人生を生きることができれば自ずと健康になっていきます。

新型コロナウイルスにはまだ多くの方が悩まされそうです。

これからは自分の健康を誰かになんとかしてもらうのではなく、自分で管理できるようにすることができます。それが自分にとっても周りの人にとっても健康に幸せに生きる近道かもしれません。

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