ワーママが理想の母親像を手放すまで
この記事の目次
子供との時間
「毎日、仕事も家事も忙しくて、子供と一緒にいる時間も短く、十分な愛情を注げているのか不安になります。」
働くママたちから、よくこんなご相談を受けます。
「3歳児神話」(3歳まで母親が育てなくてはならないという考え)をご存じですか。
1951年にイギリスの精神医学者ボウルビィが「三歳以前の『母性的養育』の欠如が発達障害の要因である」という分析から「子供が健やかに成長するためには、三歳までに一人の養育者との愛着関係が必要」と唱えた説が発端と言われています。
もとは戦争孤児などを対象にした研究でしたが、日本では『母性的養育』が『母親による養育』と読み替えられ、「3歳まで母親が育てなくてはならない」という考えとして広まったようです。
その後、高度経済成長期になり、専業主婦の家庭が多かったこともあり、この考えが支持された背景もあります。
しかし、1998年の厚生白書では「母親が育児に専念することは歴史的に見て普遍的なものでなく、たいていの育児は父親によっても遂行可能」で「合理的な根拠は認められない」とこの説を退けています。
それにも関わらず、私は長らくこの「3歳児神話」に囚われて、子供を保育園に預けて働いていることを後ろめたく感じていました。
今回は、私が感情に向き合うことで、どのように「3歳児神話」の幻想から脱していったのかについてお伝えしたいと思います。
子供がかわいそう?
私は、コンサルタントとして働いていて、息子を出産して1年半の育休の後、復職しました。
亡き母は専業主婦で、保育園に通う子を見ると「あんなに小さな頃から保育園に預けられるなんてかわいそう」と言っていたことを思い出します。
その言葉が私の中にずっと残っており、子供を預けて働くことへの後ろめたさを引き起こしていました。
今でも保育園の初登園日に、私と離れるのを嫌がって大泣きする息子を後にして、会社に向かいながら私も涙したことを思い出します。
さらにもう一つ、私の心を波立たせる言葉がありました。
夫は以前から「出産後は仕事を続けても辞めても私の好きなようにすればいい」と、私が働き続けることに理解を示してくれていました。
でもある日、何かのけんかの際に「君は自分のエゴのために働いている」と言われたことがありました。
その言葉も、私の心にずっと突き刺さっていたのです。
義母も専業主婦だったので、夫は口では働いてよいと言いつつも、心のどこかでは、私にも自分の母親のように家庭に入って子供をみてほしいという思いがあったのだと思います。
だから、そのような言葉が口をついて出たのだと思います。
私はその言葉に傷つき、自分はエゴのために働いているから、息子はそのために保育園に預けられているかわいそうな被害者という思いがますます強まっていきました。
自分に課したルール
私は、子供を預けて働くことへの罪滅ぼしのために、夫の考える母親像に近付こうと努力しました。
そして夫の決めたルールに従わなければと考えました。
1つ目のルールは、「保育園の定時の17時半までにお迎えにいくこと」でした。
息子の通う保育園は、20時まで延長保育をしてくれましたが、私は毎日、定時のお迎えに間に合うように仕事を早く切り上げていました。
働きながらも子供と一緒にいる時間をできるだけ確保して、子供に寂しい思いをさせないようにと思っていたからです。
2つ目のルールは、「20時までに寝かせること」でした。
夫は子供を早く寝かせることに、とてもこだわっていました。
後でわかったことですが、それは彼の家のルールだったのです。
義母は「うちのお父さんは、いつも残業ばかりで、私が一人で二人の息子を育てたようなものよ。でも息子たちは、私の言うことをよくきいて、毎日20時には必ず寝ていた。」と誇らしげに言っていました。
そして夫にとっては、そのルールが今もなお絶対だったのです。
夫も私も同じコンサルタントとして働いていましたが、お迎えは私、という役割分担がデフォルトでした。
今考えると、同じ仕事をしているのですから、お迎えは交代でもよかったはずです。
しかし、ここでも自分のエゴのために働いているという後ろめたさが発動して、自分が率先して仕事を調整してお迎えをすることで、母親の役割を果たそうとしていたのです。
時間に追われる
私の会社はリモートワークもできるので、毎日早く仕事を切り上げて、17時半のお迎えに間に合うように帰宅していました。
ギリギリまでミーティングをして、電車に乗り遅れないように駅に急ぎ、いつも時間に追われているような感じでした。
まずは、その仕事を終える時の感覚を感じてみました。
他のプロジェクトメンバーが仕事をしている中で、自分だけが先に帰ることへの申し訳なさが出てきました。
仕事を早く切り上げることで、十分に働けていないのではないかという不安、自己否定感も出てきました。
実際は、毎晩息子が寝てから自宅で残った仕事を片づけていたので、たったの2~3時間仕事を中断するだけのことです。
しかし、その事実も見えない程、当時の私は自分を追い込んでいました。
さらに私を縛っていたのは、「20時就寝」ルールです。
17時半にお迎えをして急いで家に帰り、ご飯を食べさせてお風呂に入れて寝かせる。
2時間半で全てを終わらせるために、早起きして夕食を作っておいたり、いろいろと工夫をしましたが、毎日が時間との闘いでした。
息子が寝た後も仕事が待っていて、朝から晩までフル稼働でした。
自分をすり減らしていてがんばっていた、本当はきつかったし辛かった、という気持ちもでてきました。
子供と過ごす時間を確保しているつもりが、実際はタスクをこなすだけの日々で、きちんと子供に向き合えていなかったという後悔もあふれてきました。
母親像の幻想
私がそれ程までに夫の考える母親像に近づこうとしていたのには、もう一つわけがありました。
幼い頃、私の母は入退院を繰り返していたため、母と一緒に過ごした記憶が断片的で、私の中の「母親像」が希薄だったということです。
なので、夫に言われた母親はこうあるべきという考えをそのまま受け入れて、それに従おうとしていたのです。
ガリ勉タイプの私は、勉強の世界に答えがあるように、常に何らかの正解を求める傾向がありました。
正解があれば、それに向かって努力することで安心できる気がしたからです。
だから育児においても、夫が考える母親像が正解だと信じて、それを目指してずっと努力してきました。
幻想を手放す
自分の感情に向き合っていくと、理想の母親像という幻想に囚われていることに気づきました。
そして次第にガチガチの枠が緩んでくるのを感じました。
私は本当に自分のエゴのために働いているの?と問いかけてみました。
私の会社のワーキングマザーの中には、出産後は時間も仕事内容も融通のききやすいバックオフィスに異動する方々も多くいます。
その中で、私は自分の好きなコンサルタントの仕事を続けたいと、コンサルタントのまま復職することを選びました。
もし子供のために自分の好きなこと、やりたいことを我慢したら、きっと私は後悔すると思ったからです。
感情を感じていくと、自分の好きなことをやっているママでいいじゃん!と思えるようになりました。
ママが満たされれば、きっと子供も満たされる、そう信じられるようにもなりました。
何が変わった?
自分に向き合い、感情を感じていくと、言動も変わってきました。
他のメンバーより先に帰る時も「すみません」ではなく、「20時頃にはまた仕事に戻るので、何かあればメールを送っておいて下さい」と言えるようになりました。
また以前は、定時にお迎えに行かなければと躍起になっていましたが、ミーティングが長引きそうな時は、無理せずに延長保育のお願いもできるようになりました。
だいぶ楽になり、気持ちにも余裕が出てきました。
そうして過ごしていると、自分が追い求めていた幻想の「母親像」も、あまり気にならなくなってきました。
他人軸を気にするのではなく、私が後悔せずに日々を過ごすために自分軸で物事を決めていけばよいと思えるようになりました。
以前は帰宅後、息子が寝るまでのたった数時間で全てをやり終えなければいけないと、まるで仕事のように日々のタスクをこなしていましたが、それも変わってきました。
時間を気にせずに子供の話に耳を傾けたり、「早く早く」と急かさずに子供のペースに合わせて待つこともできるようになりました。
息子の心にも寄り添えるようになってきました。
まとめ
私は、子供を保育園に預けて働くことへの後ろめたさに向き合うことで、自分がいかに他者の価値観に縛られているかに気づくことができました。
そしてそれを手放していくと、自分らしくあることもできるようになり、心も軽く、とても楽になりました。
息子にしっかり向きあうことができるようになり、共に過ごす時間の密度もだいぶ濃くなったと感じています。
カウンセリングをしていると、働いているママたちの中には、お子さんと共に過ごす時間の短さを気にされている方も多くいらっしゃいます。
専業主婦で、毎日お子さんと一緒に過ごせるママたちと比べて、子供への向き合いが足りていないのではないかと不安を感じることもあるかもしれません。
でも私自身、子育てをしてきて、また多くのママたちのご相談を受けてきて、お子さんとの関係性は時間の多寡によるものではない、とつくづく思います。
どんなに忙しくても、毎日ほんのひと時でも、手を止めてお子さんの目を見て、お子さんが今何を感じているのかに耳を傾ける時間を作ってみませんか。
そうすることで、お子さんたちはきっと満たされていくことでしょう。
ビジネスコンサルタントとして仕事をする傍ら、社内外での人間関係、夫や子供との関係をもっと円滑にしたいと感情カウンセリングを学ぶ。その中で、自分が不安ベースで生きてきたことに気づき、これまで見ないできた感情を感じるようになると仕事&家族関係も好転し、がんばらなくても生きやすくなったという実感を持つ。
現在は、感情カウンセリングを提供すると共に、職場のワーキングファミリーコミュニティで「子育てにおける感情の取扱説明書」セミナーを継続開催するなど、感情カウンセリングの良さを伝えることも積極的に行っている。