面倒なお客様に当たってしまったら 

 

皆さんは、こんなお客様に出くわしたことはありませんか。

 

言うことがクルクル変わる

「昨日はこう言ったのに 今日はもう別のことを言っている」

お金を払っているのは自分なんだからと威圧的な態度に出る

「俺様のいう通りに働け」

 

契約外のことまで、難題をぶつけてくる

「これもついでに解決しておいて」

 

人のせいにする

「僕がうまく説明できなかったのは、お前のせいだ」

 

勤務時間外に急ぎの依頼をしてくる

「19時過ぎのメールで『明日の朝一までに〇〇の資料を作ってほしい』」

 

いつもは穏やかなのに、自分の苦手なところをつかれると、豹変して攻撃的になる

「ガブリ!!」

ここでの「お客様」、実は「上司」「社内関係者」と言い換えることもできます。

 

私は、組織・人事系のコンサルタントをやっていますが、つい数年前まで、面倒なお客様に出くわすことが時折ありました。

 

コンサルティングの仕事は、通常、お客様からの困りごとの相談から始まります。

お客様先に出向き、何回か打ち合わせをする中で、スケジュールや支援内容を詰めていきます。

そして、ゴール、進め方、スケジュール等を合意できると契約を結びコンサルティング支援を始めるのです。

 

ある時、私は既に契約済みのプロジェクトを任されることになりました。

別の方が提案をして受注した案件を代わりにリードしてほしいと言われたのです。

あまり興味のもてない案件でしたが、しかたなく引き受けることになりました。

 

難航するプロジェクト

最初に感じたのは「面倒な仕事を任されてしまった」ということでした。

 

「私が提案した案件ではないし、やりたいテーマでもないのになぜ引き受けなければならないのか。

できるものならだれかに代わってほしい」

主体性に欠け、最初から腰が引けていました。

 

プロジェクトを始めて一番困ったのは、これまでの経緯を知らないということです。

前任者からの引継ぎは受けましたが、それにも限度があります。

 

例えば、提案中にはAかBかという議論があり、最終的にAを選んだ場合も、全ての検討経緯が事細かに書面に書き残されているわけではありません。

過去にそういう論点が幾つもあったはずです。

 

さらにこれまでの経緯を一番よく知っているはずのお客様が「契約時にはAと言ったが、やはりBかもしれない」と言い出す始末です。

 

そういうお客様の決まり切らない態度への不安をかかえながら「なんとかなる」と平静を装い、自分の気持ちを収めて(感じないふりをして)、毎回のミーティングに臨んでいました。

 

すると次第にミーティングにどんな資料を持っていっても、事前に合意した内容にさえ、お客様が苛立った様子でちゃぶ台返しをする、ということが頻発してきました。

 

すぐに謝ってしまう癖

ミーティングでお客様から「こんなんじゃない」「なんか違う」と言われると、すぐに「すみません」と謝ってしまう自分がいました。

 

その裏には、たくさんの思いが渦巻いていました。

 

あなたが前任者と合意した検討経緯を十分に汲み取れていなくて、ごめんなさい。

あなたの期待するレベルの資料が作れなくて、力不足ですみません。

あなたがお困りの社内事情まで十分に思いを馳せることができていなくて、すみません。

 

そしてこちらが謝ると、相手はさらに輪をかけて、威圧的な発言をしてくるようになりました。

 

私は相手の発言にびくびくしながら、夜中も週末も資料作りに時間を割くようになりました。

しかし、どんなに準備をしても「こんなんじゃない」と突き返さるという悪循環が続いていきました。

 

そのお客様を長く担当してきた方にアドバイスも頂きましたが、それでも状況は改善されませんでした。

 

先取りして不安を感じる

その状況を打開するために、私は「感情」の観点で二つの取り組みを始めました。

 

一つ目は、お客様から高圧的なメールが来ても、すぐに返信しないことです。

まずは感情をしっかり感じてから返事を書くようにしたのです。

 

以前の私は、お客様からメールが来ると、焦ってすぐに返事をしていました。

しかし、そこでボタンを掛け違えて、相手の感情的なメールがエスカレートすることもよくありました。

 

そこで、お客様からのメールが届いたら、まずは自分の心の動きを一つ一つ丁寧に感じてから返事を書くことにしたのです。

 

メールが届き送信元がそのお客様だとわかると、水を浴びせられたようにヒヤッとしている自分を感じてみました。

何かまずいことをしてしまったのだろうか、今度はどんな不満を言われるのだろうという不安、怖れをしっかり見つめます。

それを感じ切るまでメールは開けません。

 

中身を読んで少しでも批判めいた言葉を見つけると、それだけで動悸が激しくなりました。

そこでもその感情の中に留まり感じてみます。

 

以前の私は、そのメールを一分でも一秒でも長く自分が抱えていることが怖くて、できるだけ早く手離そうとすぐに返信していました。

しかし、まずはそこで出てきた怖れ、不安を感じてから、返信を書き始めることにしました。

 

感じきって気持ちが波立たなくなるまで返事を書き始めないと自分に課したのです。

 

それを続けていくと、以前ならメールを読んだだけで、心をかき乱されて、その感情をのせたまま返事を書いていたのが、だいぶ冷静に返信できるようになってきました。

 

二つ目は、感情を感じるリハーサルです。

皆さんもプレゼン準備として想定問答を考えてリハーサルをすることがあると思いますが、それを感情の世界においてもやるのです。

 

明日、この資料を説明したら、お客様がどんな反応をするだろう。

お客様に怒られたら私はビクっとして怖くなってしまうだろう。

 

そういう状況をシミュレーションして、感情を事前に感じておく、感情を感じるリハーサルをしてみました。

 

これを続けていくうちに、実際にお客様が怒鳴ってきても、感情の波に足をすくわれて自分を取り戻せないようなケースが減ってきました。

 

全てが自分のせいだと考える癖

私はなぜすぐに「すみません」と謝ってしまうのでしょうか。

その感情を辿っていくと、幼少期の頃を思い出しました。

 

私の母は、私を出産した直後に入院してしまい、私は数ヶ月、産婦人科に預けられていたそうです。

今の自分の感情を感じていると、ふとその時の自分の気持ちにつながった気がしたのです。

 

新生児しかいない病室に一人っきりで何か月も預けられていた私。

どんなに泣いても、生死の境を彷徨っていた母がいつ迎えに来てくれるかもわかりません。

 

父は毎日、昼間は私の病院、夜は母の病院へと通い続けたそうですが、父と一緒にいられるのもほんの数時間のことでした。

 

数ヶ月経ったある日、看護師長が父に忠告してくれたそうです。

父が病院にいる間だけはたくさんの看護師たちが集まって私をあやしてくれます。

しかし父が帰ると、私は一日中病室に寝かされているだけです。

祖父母が家にいるのであれば、一日も早く家に連れて帰ってあげて下さい、と。

 

新生児室にいる他の赤ちゃんは、お腹がすけば母親に母乳をもらい、数日で退院していきます。

しかし私は生死の境を彷徨っている母に会うこともできません。

そして、いつ父が迎えに来てくれるかもわからなかったのです。

 

当時の私は、この上もなく寂しく、まるで捨てられたような孤独を感じていたのだと思います。

今でもその頃を想像すると息苦しくなります。

 

母が病気になったのは私のせいかもしれない、私はそれで捨てられたのかもしれない、この世に生まれてきてはいけなかったのかもしれない、と数ヶ月、真っ暗な病室で自分を責め続けていたのかもしれません。

その深いバーストラウマが一因となって、相手が威圧的になると、全て自分が悪いという思考につながっていたのかもしれないと気づきました。

 

私のバーストラウマは、あまりに深く解消にはまだ時間はかかりそうですが、少しずつ感じていこうと思っています。

 

相手の感情に巻き込まれなくなる

感情の取り組みを始めて一番に変わったのは、お客様が威圧的な態度に出ても、反射的に「すみません」とは言わなくなったことです。

 

まずは一旦、相手の言葉を受け取り、恐ろしいと感じている自分を認めてから返事をするようにしました。

さらに事前に感情を感じるリハーサルをしているので、そこで湧き上がってくる恐れや不安も、以前ほど強いものではなくなってきました。

 

以前は、相手の言葉を怖がったまま返事をすると、相手の攻撃的な態度がさらにエスカレーションすることがよくありました。

しかし、一旦、自分の気持ちを認めて心を落ち着けてから返事をするようになると相手が反射的に逆上することも少なくなってきました。

 

客観的に考えてみると、このお客様は、プロジェクトマネジメントの経験があまりない方でした。

だからこそ自分がこのプロジェクトを成功させなければと強い責任感を持ち、失敗は許されないと肩に力が入っているような様子でした。

しかし経験が浅い分、プロジェクトの答えは持っていなかったのです。

なので、私たちが何を提案しても「なんとなく違う」「もっと別の視点はないか」と問いかけてきたのです。

しかし自分の中に答えがないため、その問いかけにも、きりがなかったのです。

 

自分の中に恐れや不安があることを認める、事前に相手に攻撃されるシーンを想像して湧き上がるであろう感情を感じるリハーサルを重ねると、だいぶ自分の感情に向き合えるようになってきました。

 

面倒なお客様に出会わなくなる

感情を感じることを続けてきて最大の変化は、面倒なお客様に出会わなくなったということです。

 

数年前までは、数年に1回位は面倒なお客様に当たり、昼夜問わず仕事をしたりして気の休まらない時期がありました。

しかしここ数年、面倒なお客様に出くわすことがパッタリとなくなりました。

 

そういうお客様に会う頻度が減ったことに加えて、モンスタークライアント予備軍に出会っても、私の対応が変わったことで相手をモンスターにさせずにマネージできるようになったという見方もできると思います。

 

正直、仕事がとても楽になりました。

 

先日も、難しいお客様で、これまで何人もメンバーが辞めているというプロジェクトを任されたのですが「なるようになる」と落ち着いていられる自分がいます。

感情を感じることを続けていけば、決して悪い方には行かないということを実感してきたからでしょう。

 

まとめ

「人は変えられない。できるのは自分が変わることだけ」と感情カウンセリングのクライアントさんにもよく言います。

そのための方法の一つとして「感情を感じる」アプローチはとても有効です。

 

私が面倒なお客様に当たって実践したシンプルな二つのことは

苦手な相手にメールの返事を書く時は、自分の感情を感じてから書き始める

相手に言われるであろう想定問答を考え、その時に湧き上がるであろう感情を事前に感じてみる

ということです。

 

面倒なお客様に会ってしまった、次は何を言われるのだろうとびくびくしながら行動するより、感情を感じ尽くしてからの方が落ち着いた行動ができ結果も変わっていきます。

 

自分の周囲に現れる人は、自分の感じていないことを見せてくれる「ミラー」だといいます。

 

なので、私が怖れを感じずにいるうちは、それを感じさせる人(お客様、社内の人、上司など)がこれでもかと現れてきました。

しかし感情を一つ一つクリアにしていくと、そういう人が現れなくなるのです。

また自分の対応能力が高まるため、仮にそういう人が現れてきたとしても、楽に“取り扱える“ようになるのです。

 

皆さんも、もし面倒な人が現れたら「ミラー」だと思って、自分の感情に向き合ってみてはいかがでしょうか。

感情の取り扱い方を知りたい方は、いつでもお手伝いします。

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