『実録』受験生の感情カウンセリング
この記事の目次
クライアントは小学生
1月のある日、お母さまと由くん(仮名)が私の”おうちサロン”にやってきました。
由くんは小学6年生で、半月後の2月初旬に中学受験本番を控えているというのです。
「1月に受験した他県の中学校が不合格となり、2月の本番に向けて自信を喪失してしまっています。私ではどうしても感情的になってしまうので、なんとかしてもらえませんか。」
というのがお母さまからの依頼でした。
「2月の受験では、第一志望の中学はあきらめて、絶対受かる学校しか受けたくない。だから、僕は第二、第三志望の学校しか受けない。」
由くんは投げやりな様子で言いました。
「結果はどうなるかわからないけど、あなたが行きたいとがんばってきた第一志望の学校に挑戦しないと、将来、あの時受けておけばよかったと後悔することになるかもしれないよ。」
お母さまは畳みかけます。
しかし由くんは、「受けなくても絶対後悔しないもん。」と頑なでした。
このコラムでは、人生初の挫折を経験した男の子が感情カウンセリングを通じてどのように変化していったのかをお伝えします。
※当コラムの内容は、お母様とご本人に了解を得た上で書いています。
心を閉ざす
カウンセリングの初日、由くんは、緊張して私の前に座っていました。
私は感情カウンセラーとして、まずは場をほぐしました。
「小学校では今どんな遊びが流行っているの?」
「サッカーでは、どのポジションをしているの?」
そして、だんだんと本題に入っていきます。
しかし、話題が入試のことになると、「別に」「何も感じない」と由くんは言葉少なげになりました。
小6の男の子が突然カウンセリングに連れて来られても、何を話してよいかわからないにきまっています。
お母さまによると、由くんは、まわりの雰囲気を感じとり、上手に自分の立ち位置を考えて振る舞うことのできる子供でした。
周囲の人々を見ながら、上手に自分を合わせていくことができるので、先生方からも、温厚で協調性がある子と評価されていたそうです。
一方で、本当の自分の気持ちを抑え込んで、口に出さない傾向にあるため、いろいろ我慢しているのではないかと、お母さまは心配していました。
由くんは、初めの数回のカウンセリングでは、言葉少なに私の前に座っていました。
二人の由くん
何回かカウンセリングをしているうちに、由くんは少しずつ自分の気持ちを口にできるようになってきました。
「由くんは、2月の受験に向けて、どんな気持ちでいるの?」
「面倒くさいことはやりたくない。だから第一志望の学校はやめて、絶対に受かれる学校だけを受けたい。」
しかし「1月の受験について、どう感じているの?」という問いには、相変わらず「別に」「何も感じない」と答えました。
自分の心の中にモヤモヤしたものがあることは感じているものの、ぴったりする言葉を探しあぐねているようでもありました。
しばらくして、私は聞いてみました。
「由くんの心の中に、”面倒くさいことはやりたくない”という由くん以外に別の由くんはいる?」
「うーん、”そんなの早く手放しちゃえばいいのに”という由くんがいる。」と彼はポツリとつぶやきました。
「ふーん、そうなんだ。二人の由くんがいるんだね。」
「”面倒くさいことはやりたくない”由くんと”早く手放しちゃえばいいのに”由くん、今、どっちが大きい?」
「”面倒くさいことはやりたくない”由くん」
彼は、”面倒くさい”由くんをバスケットボールほどの大きさで、”手放しちゃいなよ”由くんを、こぶし大の大きさで表現しました。
「そっか、”面倒くさい”由くんが大きいんだね。でもどっちも大切な由くんだからね。安心してね。」
と私は伝えました。
逆転
その後、数日は、”面倒くさいことはやりたくない”由くんが、”早く手放そう”由くんより大きい、という日々が続きました。
二人の由くんに向き合っているうちに、次第に”早く手放そう”由くんは、雄弁になっていきました。
「今日はなんて言ってる?」と私がたずねると
「もう一人の由くんに『早く手放しちゃえば楽になれるのに』って言ってる」と彼は言いました。
「それに対して”面倒くさい”由くんはなんて言ってる?」
「『まだ手放したくない。手放すのこわいよー。』って言ってる。」
そのこわいという気持ちも感じてみるように促しました。
毎回、彼の話に耳を傾けながら、二人の由くんの大きさを確認しました。
すると、”面倒くさい”由くんは、次第に小さくなっていきました。
そしてある日、二つの由くんの大きさが逆転したのです。
”早く手放しちゃいなよ”由くんが”面倒くさい”由くんより大きくなったのです。
由くんの答え
数日間、二人の由くんの様子を見守り、それぞれの言い分にしっかり耳を傾けてきました。
するとある時、「二人の由くんは一つになったよ。」と彼は教えてくれました。
彼の顔つきもこれまでと異なり、晴れ晴れとしています。
「二人共、大事な由くんだから、どっちかを消しちゃうのではなく、一つになったんだね。」と私。
改めて受験についての気持ちを聞いてみると
「これまでがんばってきたから、やっぱり第一志望の学校を受ける。」と彼は答えました。
心の声
初めは自分の中の感情から目をそらしていた由くんでした。
しかし”面倒くさいことはやりたくない”という自分と、”早く手放して自由になっちゃいなよ”という自分の声に気づき、しっかり耳を傾けられるようになりました。
また手放すのが怖いという感情も感じられるようになりました。
そしてどちらかを否定するのではなく、両方の自分を認めて受け入れていくうちに、二つの声が一つになり、直近の受験という課題に自分なりの答えを出すことができたのです。
その後の由くん
2月に入り、由くんは自分で決めた通り、第一志望の学校を受験しました。
当日、試験を終えて、校門で待つお母様の顔を見た由くんの第一声は
「今日、やっぱり〇〇中学を受けてよかった。」というものだったそうです。
これを聞いたお母様は、結果はどうであれ、息子が中学受験に最後まで逃げずに向き合えてよかった、この経験は息子の人生にとって成功だった、と感じたそうです。
編集後記
既にお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、この話は息子と私の実話です。
私は感情カウンセラーとして、受験生である一人のクライアントさんに向き合い、その心の声に耳を傾けました。
すると、そのクライアントさんは、自ら答えに辿り着き、納得してその決断を実行したのです。
感情カウンセリングの妙は、カウンセラー自身が感情の影響を受けない静謐な場を作ってクライアントさんに対峙することで、クライアントさんが自ら答えを導き出すという点にあります。
私自身、一般的な心理カウンセリングを受けたこともありますが、いつもカウンセラーの考える正解に持っていかれるように感じていました。
カウンセラーが答えに導いていくのを感じながら「あなたは正しいし、そうすべきなのはわかるけど、でも・・・」と心の中では納得しきれないこともありました。
従って、そこで答えが出ても実効性も伴いませんでした。
しかし、感情カウンセリングは全く違っていました。
感情カウンセラーに答えを言わされるのではなく、ただリラックスして自分のことを話しているうちに、答えが自然と口をついて出てくるのです。
他人に言わされたものではなく、自分の心から出た言葉なので、納得感も高く、実効性もありました。
もしもあなたも何かに悩み、答えを見つけたいと考えているなら、感情カウンセリングを体験してみませんか?
ビジネスコンサルタントとして仕事をする傍ら、社内外での人間関係、夫や子供との関係をもっと円滑にしたいと感情カウンセリングを学ぶ。その中で、自分が不安ベースで生きてきたことに気づき、これまで見ないできた感情を感じるようになると仕事&家族関係も好転し、がんばらなくても生きやすくなったという実感を持つ。
現在は、感情カウンセリングを提供すると共に、職場のワーキングファミリーコミュニティで「子育てにおける感情の取扱説明書」セミナーを継続開催するなど、感情カウンセリングの良さを伝えることも積極的に行っている。